たかぼんのAI小説&イラスト

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はじまりはいつも君と story5 「希望の解明」

咲良と陸は、安全を考えて都市部を避け、田舎道を選んで進むことにした。最初はコンクリートで固められた道を歩いていたが、その道は次第に砂利道へと変わり始めた。足元で砂利がジャリジャリと音を立てる。

周囲の風景は、都市の喧騒とは一変して静寂に包まれていた。生い茂る木々が道の両側に立ち並び、その枝葉は厚く、日光を遮断していた。まだ昼間のはずなのに、木々のトンネルの中はまるで薄暗い夕暮れ時のようだった。風が木の葉を揺らし、その音がひんやりとした空気に響いていた。

「陸~ちょっと待ってよ~。休憩しようよ~。」咲良は疲れた様子で、ぐんぐんと前を歩いて進んでいく陸に訴える。

「運動不足なんじゃねえか?」陸は咲良の方を振り返り、ため息をつきながら言った。

「いやいや、私がダメなんじゃなくて、陸が凄すぎるんだって!」咲良もまた、ため息をつきながら言った。

陸は、自衛隊特殊部隊の両親を持ち、学園内ではもちろんトップの運動能力、全国でも10位以内に入るほどの運動能力の持ち主なのだ。加えて機械学が得意で電子工学分野では、全国に名を響かせているほどの秀才なのである。

「わかった。もう少し進むと湖がある。そこで休憩にしよう。」

「うん!わかった!」咲良は元気を取り戻して、ぐんぐんと歩いていく。陸を追い抜かし、胸を張って歩いていく。

「おいおい…さっきのは疲れた様子は演技だったのか?」陸は咲良を見て唖然としていた。

しかし咲良を見る陸の表情はなぜか楽しそうだ。

咲良と陸は、休憩をとるために湖の近くまでやってきた。二人はその美しい景色に一瞬見とれた。澄んだ湖面は静かで、周囲の山々や木々を完璧に映し出していた。

「よし、ここで休憩にしよう」と陸が提案すると、「賛成!」と元気な声で咲良が応じた。さっきまでの疲れた様子はなんだったのか…

湖の水面には、時折小さな波紋が広がり、風がそっと触れるたびにキラキラと光を反射していた。咲良は手を湖の水の中に差し入れ、その冷たさを感じていた。そして、その光景に癒されるように、足を伸ばしてリラックスしていた。

「ねぇねぇ、お弁当にしようよ!ピクニックみたいじゃん!」咲良は後ろで荷物の整理をしている陸に声をかける。

「お弁当なんてないぞ?」

「え~さっき、カバンに缶詰とかいっぱい入れてたじゃん!」

「よく見てたな…」陸は諦めたように、カバンから缶詰を取り出す。

「なにがいいんだ?パイナップル?焼き鳥?ウナギのかば焼き?」

「え?!ウナギのかば焼きなんてあるの?」

「ああ、いろいろあるぞ。他にはカレーやビーフシチューなんてのもあるぞ」

「ウナギのかば焼きにしようよ。元気がでそうじゃん!」

「わかったよ…でも咲良はいつも元気じゃねーか?」陸は、ウナギのかば焼きの缶詰を開けながら呟いた。

「そうでもないんだよ…私だって、落ち込む時ぐらいあるんだよ…」咲良は湖の中に裸足になった素足を入れて動かし、ピチャピチャと音を立てている。

「そうなのか?」

「そうだよ!陸はもしかして、私を能天気なただの馬鹿だと思ってるんでしょう?」咲良は陸を睨みつける。

「私だって…こんなことが起きて、たくさんの人が死んでしまって…不安でいっぱいなんだから…」咲良は独り言のように呟いた。

「そうだよな…」

「でも私たちは生きてる。エレクトラも生きてるし、私たちは生き続けなければいけない。どんな状況であろうと…」

「そのとおりだ」陸は頷く。

「だから私だって、元気でいなくちゃって…」咲良はそう言うと、膝の間に顔を埋めて泣いた。陸はそっと咲良の横に座った。

陸は咲良が落ち着くまで、しばらくそうしていた。

そして「咲良、ウナギのかば焼きだ、食べなよ」と陸がそっとそれを差し出すと、

「いい匂い!」咲良はガバっと顔を上げて、ウナギのかば焼きを受け取った。

「美味しそ~陸も一緒に食べようっ」咲良の目には、まだ涙が残っていた。

「ああ」陸は返事をして、自分の缶詰を開けて食べた。

目の前に広がる湖は、木々の間から柔らかな日差しが差し込み、湖面に反射し、黄金色の輝きを放っていた。

二人は、時間が止まったかのように、現実の喧騒から解き放たれた。

鳥のさえずりや風に揺れる木々の音が、まるで二人だけに奏でられる音楽のように響いていた。

「さて行こうか。」陸が立ち上がって、咲良にそっと手を伸ばす。

咲良はその手を取り、立ち上がった。

突然、その時だった。

不気味な獣の唸り声が木々の奥から響いてきた。腹の底から絞り出されるようなその声に、空気が一気に張り詰めた。

唸り声は次第に数を増し、やがて周囲を取り囲むように響き渡る。薄暗い森の中で、音の反響が方向感覚を狂わせた。木々の影が揺れ、まるで何かが動き回っているかのようだった。咲良の心臓は早鐘のように打ち、その音が耳元で響いているかのように感じた。

「やばい、囲まれているな。」陸は冷静に状況を分析し、ナイフを取り出した。逆手に持ち直し、彼は身構えた。

「咲良、俺の後ろにいて。絶対に離れるな。」と陸が低い声で命じた。その声には普段とは違う緊張感と覚悟が滲んでいた。

咲良は恐怖に震えながらも、陸の背後に回り込んだ。唸り声はますます近づき、木々の間にちらりと見える影が増えてきた。何かがこちらに向かって突進してくるのがわかる。

「え?!」咲良が驚きの声を漏らした瞬間だった。彼女の腰に掛けてあったポシェットが突如、青白く輝きだした。その光は暗闇を切り裂くように放射された。そして、次の瞬間、稲妻のような放電が迸った。

さくらん、大丈夫だよ

また、咲良の頭の中に声が響いた。

エレクトラ!」咲良の声が響く中、放電の矢はまるで生き物のように猛然と獣たちに向かって突き進んだ。青白い閃光が森の闇を裂き、獣の唸り声をかき消していく。その矢は次々と襲い来る獣を正確に捉え、電撃が走るたびに獣たちは悲鳴をあげて地面に崩れ落ちた。

稲妻の光が一閃するたびに、獣たちは次々と串刺しにされ、光の中で痙攣する姿が浮かび上がった。

「すごい…」陸も驚きの表情を浮かべていた。

放電の閃光が次第に収まり、静寂が戻ると、獣たちは皆地面に倒れていた。咲良のポシェットは再び静かになり、エレクトラの光も消え去った。咲良と陸は周囲を見渡し、生き延びたことに安堵の表情を浮かべた。

「ありがとう、エレクトラ」と咲良がポシェットに向かって優しく囁いた。

森に静寂が戻ったかと思ったが、次は人の声が聞こえた。陸は再び身構えたが、現れたのは、一人の老人だった。

その老人の髪は白髪混じりの短髪で、やや無造作に整えられている。優しい茶色の瞳をしており、細身で背が高く、厚手の眼鏡をかけていた。その瞳には穏やかな光が宿り、見るだけで心が和むようだった。彼の全体から漂う落ち着いた雰囲気と、優しい笑顔が自然と安心感を与えていた。

「大丈夫ですか?」老人は心配そうな表情で声をかけてきた。その声には温かみがあり、まるで長い間会っていなかった家族に再会したかのような親しみが感じられた。

陸はその様子に安堵し、安全だと判断して、構えを解き、ナイフを収めた。

「森を散策していた時に野犬たちに襲われる君たちを見かけて駆け付けたんだが、さっきの光は何だったのかな?そしてこれは君たちがやったことなのかな?」老人は周囲に倒れている野犬たちを見て言った。

「いえ、これは私の大事な家族のエレクトラが助けてくれたんです。」咲良はポシェットの中身を見せて、誇らしげに言った。

老人はポシェットの中を覗き込む。「クラゲですか?」

「はい、電気クラゲのエレクトラっていいます」咲良が答える。

「こんなことが…」老人は驚きの表情でエレクトラを見つめている。

「私は生物学の研究をしている鈴木和夫と言います。この先に私の研究所がありますので、そちらで少しお話をしませんか?」

 

陸は咲良を見て言った。「どうする?」

咲良は少し考えた様子だったが、「生物学の研究所でしたら、エレクトラが休めるような大きな水槽とかありますか?」

「もちろん、ありますよ。」鈴木は笑顔で答えた。

「陸、行こう!エレクトラもずっと狭い所で我慢してるから。広い水槽で休ませてあげたいの」

「わかった。それでは鈴木さん、よろしくお願いします。」

陸と咲良は彼に案内されて、森の少し奥に入り込んだ場所に建てられている研究所に向かった。

その研究所はコンクリートで作られた3階建ての建物だった。大きさは一棟のアパートぐらいの大きさだった。

中には、水槽が多く並べられており、多種多様な生き物が飼育されていた。

「私は水生生物が専門でしてね。」鈴木は、興味深そうに水槽を見つめる咲良に声をかけた。

「さあこちらです。広い水槽でエレクトラくんを休ませてあげましょう。」鈴木はそう言うと、空の水槽に水を入れ始めた。

「この水は海洋水ですから大丈夫ですよ。」

水槽に海水が満たされるのを待って、咲良はエレクトラをポシェットから水槽へそっと移した。

「狭い所で長い間ごめんね。」咲良はエレクトラに話しかけた。

エレクトラはそれに答えるように少し発光すると、優雅に水槽の中を漂っていた。

「それでは、お二人様はこちらのソファに座ってください。飲み物を用意するので少しお待ちください。」

鈴木は奥の部屋へと向かった。

陸と咲良がソファに並んで座ると、しばらくして白髪の老人が透明のガラスコップにお茶を入れて戻ってきた。飲み物を陸と咲良の前に置くと、彼は陸と咲良の向かい側のソファに座った。

「こんなに若い人が生き残ってくれて、本当に嬉しい。」彼は陸と咲良を交互に見つめながら言った。

「あの時もエレクトラが助けてくれたんです」咲良が答えると、

「そうでしたか」と彼は言い、エレクトラが泳いでいる水槽の方に目を移した。

「私はあの時、この研究所で一人で研究をしていたんです。空を彩る光が見えた時、咄嗟に電磁波、おそらく重力波と呼ぶほうが正確なのかもしれませんが、大気に影響が出ることが分かったので、すぐに酸素ボンベを使ったのです。ここにはそういう機材はそろっていますからね。

恐ろしいことが起きました。あの後、街の方にも行ってみましたが、たくさんの人が亡くなっていた。警察も消防も自衛隊でさえ動いていない。

生き残っている人もいましたが、凶暴化していた。人類は滅んでしまったのだと思いました。私一人の力ではどうすることもできず、とりあえずこの研究所に戻ろうとしていた際に、君たちに出会ったというわけです。」

陸は白髪の老人の話に続けて話し始めた。

「自分たちは、先程話したようにエレクトラの力によってあの時を生き延びました。その後、普段では使われない周波数で呼びかける咲良の母親の声を聞いたのです。」陸は咲良に視線を移した。

そして次に咲良が話を繋げる。

「そう!そして今、私の母親に会いに行こうとしているんです!

私の母親は、宇宙科学の研究をしている泉真央と言います。お母さんなら今のこの状況を理解していて、どうしたらいいのか知っているはずなんです!」

「え?!」白髪の老人は驚いた声を出した。

「もしかして泉真央さんの娘さんですか?」

「私のお母さんを知ってるんですか?」咲良は訊いた。

「ええ、知っています。私はこれでも大学の教授を務めていまして、その同じ大学で宇宙科学の教授をしていたのが泉真央さんです。とても優秀な方で、私も研究や論文で切磋琢磨していた時がありました。

そうですね。泉真央教授ならば、この状況を把握されていることでしょう。」

咲良は自分の母親を褒めてもらってとても嬉しそうだ。

「そして、何より訊きたいのがエレクトラくんのことです。職業柄とても興味がありまして」鈴木教授は咲良の視線をしっかりと捉えた。その好奇心に満ちた視線は全く年齢を感じさせないものだった。

「えっと…どんなことでしょう?」咲良は力強い鈴木教授の視線に圧倒されながら言った。

エレクトラくんはあなたの言葉を理解しているのですか?」

「えっと…時々お話ししてくれます」

「なんと…」鈴木教授は驚きの表情だ。

「それは音声としてですか?」

「いえ、違います。頭の中に声が響いてくる感じです」

「なるほど…では先程、野犬を退けた電撃を命じたのは咲良さんですか?」

「いえ、違います。エレクトラが助けてくれたんです。」

「なんと…」鈴木教授はまた驚きの表情を浮かべたが、すぐに真剣な表情に戻った。

そして、独り言のように、エレクトラの能力についてブツブツと考え始めた。

「電気クラゲが知能を持っている…脳を持たないクラゲのどこに知能回路が存在するんだ…いや…一時的に電気の力で脳のニューロン回路を形成することができれば…理論上は可能だが…」

「えっと…鈴木教授?」咲良がブツブツと独り言を言って、自分の世界に沈み込んでいく老人を現実に戻そうと声をかける。

「おおっと、すまんね。ついつい…いやしかし、これはすごい発見かもしれないよ。まずはエレクトラくんが咲良さんとコミュニケーションが取れているということは、エレクトラくんに知性があるということなんだ。その知性はきっと、電気の力で一時的に形成されているものだと推定できる。たぶん、咲良さんの身に危険が迫った時などに形成されるんだと思います。

電気の力で敵を退けることは決して珍しいことではありません。

電気ウナギなども、巨大なワニなどをその力で撃退することもあるのですから。」

「うちのエレクトラはすごいんです!エッヘン」咲良は胸を張って誇らしげだ。

水槽の中のエレクトラも、それに答えるように青白い光を発した。

「今夜はここに泊まっていかないかい?もう夕方だし、これから暗くなるから危険だからね。ここには宿泊施設も整っているし、夜ご飯は温かいものを用意できるよ。」

鈴木教授は、エレクトラの泳いでいる水槽に目を向ける。

「それに、もうちょっとエレクトラくんのことを知りたいんだ。どうだろう?」

陸は頷いた。

「ありがとうございます。外で野宿することを考えれば、本当にありがたいことです。よろしくお願いします。」

晩御飯はカレーだった。鈴木教授のこだわりのスパイスを使ったカレーでとても美味しかった。

咲良はお腹がいっぱいになると眠たくなって、ベッドに横になると、すぐに眠りに落ちた。

鈴木教授は、エレクトラの水槽から離れない。今夜は徹夜で観察するそうだ。

咲良は夢を見た。

宇宙から侵略してくる大怪獣を、エレクトラが、バッサバッサとなぎ倒して地球を守る夢を。

咲良はその後ろで旗を振って一生懸命応援しているのだった...。




始まりはいつも君と story4 「出発」

「中村さん、俺たち行かなくてはいけないところができました」陸が中村拓也に話しかけた。

「うん、聞いていたよ。」

「中村さんはどうしますか?。」

「私は、避難所や病院、警察などを回ってみようと思う。私と同じように生き残った人が必ずいるはずだから」

「体の方はもう大丈夫ですか?」

「うん、かなり回復してきたから、自分一人で動ける。もう大丈夫だよ。

恵美のことも、ちゃんとしてあげたいしね。」中村拓也は愛する彼女が横たわる方向に目を移しながら言った。

「そうですね・・・。」

「そうだ、これを持って行ってほしい。」中村拓也は無線機を陸に渡した。

「これは?。」陸が訊く。

「ちょっと改造したトランシーバーだ。高周波帯で使えるものだよ。僕も持っておくから、これで連絡を取り合うことができる。」

「わかりました。ありがとうございます。」陸は中村拓也にお礼を言ってトランシーバーを受け取った。

「高周波を使うには電力をかなり消費するから、バッテリーは3回分ぐらいで無くなると思う。充電できるところでこまめに充電するようにするんだよ。」

「はい。」陸は答えた。

中村拓也は立ち上がった。

「店主さん、これ頂きますね。ここにお金置いときます。」そう言うと

カウンターで亡くなっている店主の男性の横に1万円札を10枚ほど置いた。

「それでは行きます。」陸が言った。

「うん、ありがとね。気をつけて!」

「拓也さん!また会いましょう!!」咲良は手をブンブンと振りながら言った。

「うん。咲良ちゃんも元気でね!」

「はいっ」

咲良は陸の元へ歩み寄り、そして肩を並べて歩を進めた。

「まずは俺の家に寄るぞ。」陸が言った。

「どうして?」咲良は首を傾げながら訊いた。

「サバイバルに必要な道具を持ってくる」

「おーーーなんか本格的だね、そういえば陸の両親って自衛官だったっけ?」

「あぁ、そうだ。災害なんかがあったら、一番に駆け付けなきゃいけないからな。今頃大忙しなんじゃないか。」

「うん、きっと陸のお母さんとお父さんは生きてて、今頑張ってると思うっ!」

「そうだな・・いつも言ってたよ。災害が起こった時は、たくさんの人を守らないといけないから、陸のそばにいてあげれない。だから陸は一人でも生き抜く必要があるんだよってな。」それで、俺は子どもの頃からサバイバル術を徹底的に叩き込まれた。

「おーキャンプみたいでワクワクだねっ!」咲良は楽しそうにはしゃいでいる。

「あのなぁ・・・咲良はいつも楽観的だな・・・」陸の表情は憂鬱そうだ。

「えーそう?同じ事をするにしても、楽しく考えたほうがうまくいくんだよ!!これ咲良流哲学!恐れ入ったか!」咲良は胸を張って言った。

陸は大きなため息をついた。

陸は、自分の家に着くと、迷彩が施された大きなバックに、次々と物を入れていく。

咲良は「おー」と感嘆の声をあげながら、その様子を眺めている。

「よし、準備は出来たぞ。まずはルートを決めよう。」

陸はバッグのサイドポケットに差し込まれていた地図を抜き取り、広げた。

「携帯はまったく使えない。グーグルマップも使えないからな。まずは行く方向を確認するぞ。」

「うん。わかった。」咲良は陸が広げた地図を覗き込む。

「今の場所はここだ。」陸は広げた地図を指さしながら言った。

「うん」

「それで向かう先がここ、宇宙科学研究所。」陸は地図上で指を動かす。

「公共交通機関が使えない今は、歩いていくしかない。」

「うん。」

「歩いて3日ぐらいかかると思う。」陸の表情は険しい。

「えー電車で2時間くらいだよっ」咲良は驚きの声をあげて言った。

「できれば街中を避けていきたい。」

「どうして?」

「咲良が一緒だからだ。」

「ん?だからどうして?」

「咲良は聞いた事ないか?災害などが起こった時、レイプ事件が多発することを?」

「え...知らないよ。」咲良は思わず口から出た言葉を遮るように手を口にあてる。

「あまり報道されることがないからな。人間も動物なんだ。災害などで、種の保存が脅かされようと感じた時、人間は生殖本能が活性化する。」

「うわ最悪...」

「だから、できるだけ街中は避けていきたい。」

「ん?あれ?陸も男の子だよね...」咲良は腕を組んで少し考え込んだ。

「あっ...ってことはもしかして陸も私を襲いたいって思ってるのっ?」咲良は、後ずさるように陸と距離をとる。

「大丈夫だ、俺は咲良を女と見たことなど一度もない。」陸はきっぱりと答えた。

「うぁ!ひどっ」咲良は後ずさっていた歩を止め、逆に距離をつめる。顎を突き出し、陸を問い詰める。

「私だってね!最近は成長もすごいんだからねっ」咲良は胸の膨らみを強調するように手を下胸に添えて持ち上げる。普段はそう見えないのだが、きっと着痩せするタイプなのだろう。

もち上げられた胸はすごいボリュームを露わにしていた。

「うっ...」陸は思わず咲良の胸に釘付けになる。

「...ってどこ見てんのよっ」咲良は顔を真っ赤にしながら、思いっきり平手で陸の頬を叩いた。

「そっちが勝手に見せつけてきたんだろ...まったく...」陸は叩かれた頬をさするようにして言った。

「まぁいいわ...で、どの方角から行くの?」咲良は陸から背を向ける格好で腕を組んで言った。

「できるだけ都会は避けて山道を行く。

都会は火災やガス爆発などが起きる危険性がある。避けていくべきだ。」

「わかった。」咲良は頷く。

「よし。じゃあ行こうか。」陸は地図をたたんでバックのサイドポケットに突っ込み、そのバッグを背中に背負った。

「わかったわ。」

「でもちょっと待ってね。エレクトラにご飯あげるね。」

咲良はごそごそと自分のカバンの中を探るようなしぐさをすると、「えれくとらのえ~さ~!」といって、乾燥プランクトンと書かれた20センチ四方の箱を取り出した。

ドラえもんかよ」陸はとりあえずお決まりの突っ込みで返す。

「えへへ」咲良は微笑を浮かべて、エレクトラの居るポシェットの蓋を開いた。エレクトラは狭い空間ではあるが優雅に泳いでいた。」

エレクトラ、ごめんね。狭い所に閉じ込めちゃってて。はい、ご飯だよ。」

咲良は粉末状になっている乾燥プランクトンを指で少量つまんでエレクトラが入っているポシェットの中に優しく入れる。

さくらん、ありがとうびび

咲良の頭の中に直接響いてくるような声が聞こえた。

「ぉお、エレクトラが返事したぁー」咲良が歓喜の声をあげる。

「ん?エレクトラ喋ったのか?」陸が咲良の喜んでいる顔を覗き込みながら言った。

「うんっ」

エレクトラ~えらいよ~~」咲良はポシェットを撫でながら言った。

さくらん、森の道を進むんなら、犬や猫の動物に注意してびび。衝撃波の影響で凶暴化してるからびび。

「おぉ!!うん、わかったっ!エレクトラっありがとっ!」

「どんな会話をしてるんだ?」陸にはエレクトラの声は聞こえない。

エレクトラがね、犬や猫なんかの動物が凶暴化してるから気をつけろって。」咲良が陸にエレクトラの言葉を伝える。

「凶暴化?衝撃波の影響か?」陸が訊いた。

「うん、そうみたい...」

「そうか...動物にも影響があるってことは、人間にも影響がでるのかもしれないな?」

「ぇえ!?人がゾンビ映画みたいに襲ってくるってこと??」

「いや、全てがそうなるわけではないのだろう。拓也さんはそういう影響を受けたようには見えなかったからな・・・」

「そうだね。」

「個人差があるのかもしれないな。気を付けて行こう。エレクトラありがとな。」陸は咲良が肩から下げているポシェットの中身に向かって言った。

「それではれっつごー」咲良が元気よく掛け声をあげて、玄関に向かう。

「おい、ちょっと待てって!」

慌てて、陸もその後を追った。

始まりはいつも君と story3 「進むべき道」

 外へ出た二人は、信じられない光景に凍り付いた。
目の前には、車同士が折り重なり合い、黒煙をあげながら燃え続ける様子が広がっていた。
何台かの車はすでに炎に包まれ、赤い舌が激しく舞い上がっている。
歩道には、喉をかきむしるようにして苦しみながら倒れる人々が大勢転がっていた。
その姿は絶望的で、見るに堪えない光景だった。
住宅街からは火の手が上がり、家々は次々と炭と化していく。火の粉が空中に舞い上がり、燃え尽きた破片が風に乗って散らばる。あらゆる方向から炎の熱気が押し寄せ、灼熱の空気が肌を焼くように感じられた。

「なんてことなの・・・」咲良の目は大きく見開かれ、唇が震えていた。彼女の手は無意識に口元に伸び、その場に立ち尽くしたまま固まってしまった。心臓の鼓動が耳元で鳴り響き、頭が真っ白になる感覚が押し寄せてくる。

陸も同様に、信じられない光景に目を奪われていた。彼の眉は深く寄せられ、目は驚愕と混乱でいっぱいだった。
手のひらが汗で湿り、拳を握りしめるも、その力は入らない。

陸の視線は、煙と炎に包まれた車や、倒れる人々を絶え間なく行き来していた。
咲良は、一歩後ずさりしようとしたが、足が地面に縛られたように動かない。陸がそっと彼女の肩に手を置くと、咲良はその温かさに少しだけ現実に引き戻された。しかし、その目からは、涙が溢れ、頬を伝い落ちた。

「これが現実だなんて・・・信じられない・・・みんな死んじゃったの?」咲良の声はかすれ、震えていた。

「何が起きてるんだ…」陸は唇を噛みしめ、周囲を見回した。
「咲良、俺たちがエレクトラの青い光に守られてた時間ってどれくらいだった?」
「たぶん、10分くらいだったと思う」エレクトラが入っているポシェットを見ながら咲良が答える。
「10分か…」陸が考え込むように頭を傾げた。
「どうしたの?」咲良が心配そうに陸の顔を覗き込む。
「あの時、強力な電磁波が地球を襲ったんだと思う。あのオーロラのような現象がそうだ。そして急に息ができなくなった。それは、急激な気圧の変化により酸素濃度が低下したからだと思う。俺たちは、エレクトラの青い光の膜によって守られた。しかし、10分間、もし酸素供給が途絶えたとしたら、人間の生存確率はかなり低くなる。人間の大脳は8分間酸素が供給されないと復活不可能になると言われている。しかし、内呼吸と言って、筋肉が生み出した二酸化炭素を酸素に取り換えて、血液中のヘモグロビンによって運ばれる動きは、呼吸を止めたとしてもすぐに止まってしまうものではないんだ」

「ねえ陸…だからどういうことなの?」

「ああ。すまない、だから生き残っている人も必ずいるということだ」

「探しましょう!」咲良は走り出した。

「おい!咲良!ちょっと待て!」陸は慌てて咲良の後を追う。

 


しかし咲良の足は止まらない。
陸は知っていた。こうなると咲良は絶対に止まらない、昔からそうだった。
陸は諦めて咲良を追いかけた。

彼らがたどり着いたのは、駅前の広場だった。そこはかつて、恋人や友達が待ち合わせをするのに最適だった大きな噴水があった。
しかし、今はその広場も、倒れる人々に埋め尽くされる無残な姿に変わり果てていた。
その中で、一人の男性が地面に倒れ込みながらも、なんとか起き上がろうとしているのを咲良が見つけた。
咲良と陸は一瞬目を見合わせ、そして一斉にその男性のもとへ走り寄った。

「大丈夫ですか?」咲良は声をかけながら膝をついて、男性の肩に手を添えた。
男性は苦しそうに息をしながら、かすかに頷いた。
陸もすぐそばに来て、男性を支えるように腕を回した。

「恵美は…?」男性はかすれる声で言った。
「恵美さん?知り合いですか?」咲良が訊くと、その男性は顔を横に向けた。その視線の先には倒れる女性の姿があった。
陸はその女性を見たが、息をしていないことはすぐに分かった。陸は顔を横に振った。
男性は目をつぶり、そのまま涙を流した。
咲良は男性を包むように抱きしめた。そして咲良もまた涙を流した。

「何が起きたのか教えてください」陸は男性に話しかける。
男性は30歳ぐらいで、これからデートだったのかもしれない、おしゃれなスーツを着ていた。名前を中村拓也と名乗った。

「恵美とここで待ち合わせをしていたんだ。」中村拓也はすぐ横で倒れている女性の姿を見つめながら話し始めた。
「そうしていたら、夜空にオーロラのような光が現れて、とても美しくて、恵美と二人で見ていたら、急に息ができなくなったんだ。恵美も同時に苦しみ出した。周りの人たちも同じように苦しんでいた。どうすることもできなかった。そのまま視覚も失われてブラックアウトした。そのまま意識もなくしていたんだろう…そこからの記憶はない。どれくらい時間が過ぎたのかもわからない。意識が戻って、呼吸ができていることを自覚して、なんとか起き上がろうとしていた時に、君たちの声が聞こえたんだ」

「なるほど、そうでしたか」陸は頷いた。
咲良はまだ、男性を抱きしめたままだった。
男性は少し困ったように「もう大丈夫ですよ。落ち着いてきました。」と言って咲良の頭を撫でた。
「あなたがいっぱい悲しんでくれたので、もう大丈夫です。」

中村拓也は咲良のためにそう言ったのだろう。愛する女性が自分のすぐ横で亡くなったのだ。そんな簡単に立ち直れるわけがない。陸はそう感じながらも、男性に感謝した。
「咲良、これからのことを考えなくてはいけない。もう顔を上げるんだ。」
「うん、わかった。」咲良はゆっくりと抱きしめていた腕をほどいた。

「二人は恋人同士なんだね。仲良くね。」中村拓也が言った。
「ええええええ!ち、違います!ただの幼馴染です!」咲良が慌てたように、手をブンブンと振った。
男性はにっこりと微笑んだ。

「とにかく、まだ生き残っている人がいないか探さないと…」陸は言った。
「しかし、まずは状況を確認したい。」中村拓也はそう言うと、ポケットから携帯電話を取り出すが、電話はもちろん、ネットにも繋がらない。
「強力な電磁波の影響で、電子機器がほとんどだめになっています。」
「なんてことだ…」
「陸君、私をそこの電気屋まで連れて行ってくれないか?」
「どうしてですか?」
「私はこう見えても、電子機器のエンジニアなんだ。なんとかなるかもしれない。」
「わかりました。」陸が答えると、男性の肩を担いだ。
男性が言う電気屋は、今の場所から100メートル先ぐらいにある。
咲良も男性の反対側の肩を担いで歩き出した。
電気屋の中では、カウンターで店員と思われる男性が亡くなっていた。
「すみません。少しお借りします。」と中村拓也は声をかけて、ラジオなどの通信機器が並んでいる棚に向かった。
「修理できそうですか?」一生懸命に電子機器を修理している中村拓也に咲良が話しかけた。
「うーん。通常の周波数では無理だね。何らかの力で妨害されている。でも、マイクロ波やミリ波と呼ばれる周波数は生きてるかもしれない。本当はそこは衛星通信などに使われる周波数で、使うと違法になるんだけどね、今はそんなこと言ってられないから…」

「ふむふむ、なるほど。」咲良が胸の前で腕を交差に組み、得意げに頷いている。

しかし、
「咲良…なんも理解できてないだろ…」陸が疑いの目つきで咲良に問いかける。
「そんなことないもん!エレクトラは理解してるもん!ねーエレクトラー」咲良は愛する電気クラゲが入っているポシェットに話しかける。「エレクトラが理解してるということは私も理解してるってことだからねっ」

「なんだよ、その理屈…で、エレクトラの声は今でも聞こえるのか?」

「ううん、今は聞こえない。でもエレクトラの考えてることは伝わってくるんだよ!私たちの間には愛があるからねっ」
咲良は意味不明な理屈で自信満々に答えた。

「聞こえたぞ!」中村拓也が叫んだ。
今までは、雑音ばかりが聞こえていたスピーカーから、かすかであるが人間の声が聞こえた。
中村拓也は、強力なパラボラアンテナに大出力のバッテリーを強引に繋げて、高周波の電波を拾うのに成功したようだった。
「わた・は…宇宙科学研究所のい…まおです…普段は使われない周波数でよ…かけ…います。きこえ…いるひとがいることを祈ります。このたびの出来事は、宇宙からの衝撃波の影響で…まずは電磁波の影響を受けやすい都会から退避してください。できるだけ自然豊かな環境に…人類は…しい…して…なくてはいけません…」

「おかあさん…」咲良が呟くように言った。
「え?」
「お母さんの声だ…」

「確か咲良の母親って有名な科学者だったよな?」
「うん、今は3か月家に帰ってきてないけどね。すぐに研究に没頭しちゃってすぐ大学に籠っちゃうの・・今までもそんなことよくあったから・・気にしてなかったんだけど」

「そうか・・・」

咲良は考え込むようにその場に立ちすくんだ。

そして言った。

「私、お母さんの所へ行く!」お母さんなら、いろんなことを知ってると思うの!」咲良は振り向いて陸の目をまっすぐに見つめて言った。

「じゃぁ私行くから・・ 陸またね」咲良はそう言ってスタスタと出口に向かって歩き出す。

「おい。咲良!どっちの方角に進んだらいいのか分かっってるのか?」陸が咲良の後ろ姿に呆れた表情で声をかけた。

「うっ」咲良は立ち止まった。

「そもそも、母親がいる研究所の場所知ってるのか?」

「うっ」咲良は顔を俯ける。

「で、交通機関が使えないんだぞ。どれくらいかかるか分かってるのか?」
「うぅぅ・・・」咲良が頭を抱える。

陸はため息をついた。
「俺も一緒に行くよ」

「え!ほんと!うれしい!」咲良はくるっと陸の方に向き直ってそう言った。それは見事な反転だった。
それはHIP-HOPダンスの先駆者KEITEのような体捌きだった。

「咲良・・・・最初から俺がそう言うと解ってたろ・・」陸はもう一度ため息をついた。

「えーーそんなことないよぉーーー」咲良は目をキラキラと光らせながら素敵な笑顔を浮かべて陸を見つめていた。

「まったく・・・」陸は3度目のため息を深くついた。

はじまりはいつも君と story 2「クラゲの声」

その時が、泉咲良と高橋陸を襲ったのは、天空の星々が夜空を彩る冬の寒い季節だった。

「で…なんで今、俺、ここに居るんだ?」陸が不満そうな表情を浮かべて、青白く美しく光る水槽をじっと見つめる咲良に言った。
「ん~なんでだろう…エレクトラが陸に会いたいって言ったから?」
エレクトラとは咲良が大事に育てている電気クラゲのことだ。
「そんな訳ないだろ…」
「そんな訳あるよ?だってエレクトラがそう言ってるんだもん。ねーエレクトラ!」水槽の中には青白い光を放つ電気クラゲが、咲良とまるで対話をしているように優雅に泳いでいる。
「あのなー咲良…電気クラゲオタクもほどほどにしろよ…電気クラゲが言葉を発することなんてないだろ」
「ん~陸はわかってないね…同じ命を持つ生物なんだよ。お互いのことを信じて理解しようと歩み寄れば、言葉なんか違ってもわかりあえるものなんだよ」
「…まぁいい…咲良はそれでいいと思う…」陸は不機嫌な表情ではあるが、咲良の顔を見て、満足そうに頷いている。

「一緒にいてほしいの…ん?あれ…」咲良の顔が急に赤く染まっていく。
「ぁ・違うの!エレクトラがそう言ってるの!!私の気持ちじゃないのよ!」咲良が焦ったような表情で両手をブンブンと交差に振りながらそう言った。
陸は咲良より歳が一つ上の18歳だが、父を幼いころに亡くした咲良の父親兼兄のような存在で、咲良をずっと支えてきたのだ。
「そ・そうか…」なぜか陸の顔も真っ赤になっている。
「夜中に急に呼び出されて、来てみれば用事なしかよ…まったく…」陸は頬杖をつき、ため息を吐いた。

その時だった。
ドン!という衝撃音が鳴り響き、空気が揺れ動いた気配を感じた。
「なんだ?」陸は立ち上がり、窓から外を覗き見る。
「咲良、こっちに来てみろ!」
「どうしたの?」咲良が陸の隣に歩み寄り、空を見た。
「わぁ!!綺麗!!」
外は夜の闇に包まれていたが、空には虹色の光がカーテンのように広がっていた。その光は静かに揺れ、まるで天の川が色を変えたようだった。
光の帯はまるで絹の布が風にたなびくように、滑らかに、そして優雅に広がり始めた。赤、緑、青、紫…さまざまな色が交じり合い、空全体を幻想的な舞台へと変えていく。
「オーロラみたいだね!!」咲良ははしゃぐような声で陸に話しかけるが、陸の表情は硬い。
「オーロラなんて規模じゃないぞ。咲良、オーロラはなんで発生するか知ってるか?」
「ん~知らない」
「オーロラは簡単に言うと太陽風と呼ばれる電粒子が地球の磁気圏に衝突して起こるんだ。」
「うん!全然わからない!!」咲良は胸を張ってそう答える。
「これはやばいかもしれない、地球の磁場や重力に影響がでるかもしれない」陸がそのように言った瞬間だった。

キーンという耳鳴りと共に、フワっと身体が浮き上がる。
「ええええええ!」咲良が叫んだ。
「咲良つかまれ!!」陸は窓から外に飛ばされようとしている咲良の手を掴み、窓枠にしっかりとしがみついた。
「うぅぅぅ、苦しい…」咲良が苦しそうに必死に呼吸をしている。
「やばい、酸素濃度が急激に低下している!磁場の急激な変化の影響だ。」陸も苦悶の表情をしている。

 

だいじょうぶだよ…ぼくがまもってあげる…

 

咲良の頭の中に不思議な声が響く。
パリンという、皿の割れたような音がした。そして咲良と陸の周りに青色の光が現れた。その瞬間、息も普段通りできるようになり、重力も元に戻った。急に重力が戻ったので、咲良が窓から落ちそうになったが、陸が必死に引き戻した。
「どういうことだ…」陸が、自分たちの周りを取り巻く青い光を見ている。
エレクトラだよ!エレクトラが私たちを守ってくれたんだよ!」咲良が水槽に走り寄る。水槽の中の電気クラゲは、何もなかったように美しい光を発しながら優雅に水の中を漂っている。
「そういうことだったんだね!エレクトラは危険なことが起きるって知ってたんだ!だから陸をここに呼ばせて私たちを守ってくれたんだね!」

 

うん、そうだよ

 

また咲良の頭の中に声が響く。
「ぉお!エレクトラの声が聞こえる!!」
「おい…大丈夫か…精神錯乱をおこしてるのか?」陸が咲良の後ろから心配そうに声をかける。
「ほんとだもん!嘘じゃない!エレクトラが私に話しかけてくれてるの!」
「今までの意思が分かりあえてるっていうのと違うのか?」
「うん!違う!ほんとに声が聞こえるの!」咲良は興奮していた。
「うーん」陸は腕を組んで考え込む。
「もしかしたら、さっきの磁場や重力変動に影響を受けて進化したのか?」
「やったーーーエレクトラ!お話しできるようになったんだね!!」咲良は嬉しそうだ。
「いやいや…そんな簡単なことじゃないと思うぞ…まぁ声も電気信号だからな、電気クラゲが電気信号を咲良の脳に直接送っているということも考えられるけど…」
エレクトラありがとね!!」咲良はにっこりと微笑んで水槽の中の電気クラゲに話しかける。
「助けてくれたのだというのなら、自分も感謝する。エレクトラありがとう。」
エレクトラはその言葉に答えるかのように、発光した。
「しかし、こんなことしてる場合じゃないようだぞ。」
街は暗闇だった。街灯や家々の灯りも消えている。普段なら、他の家から漏れ聞こえるテレビの音などもなく、不気味な静寂に包まれている。
陸は、テレビをつけようとしたが、だめだった。
「さっきの電磁波の影響を受けたんだろう。電化製品は全部だめだな。」
「陸…どうしよう…」咲良は不安そうな表情で陸をみつめる。
「とにかく、外へ出て状況を確認したほうが良さそうだな」
「うん、わかった!」咲良は急いで準備にかかった。大きめの革製のポシェットを腰に巻き付けると、慣れた手つきでエレクトラをその中に入れた。
エレクトラも連れていくのか?」
「もちろんだよ!これエレクトラとお出かけするときに使う特製のポシェット!海水が入ってるんだ!手作りだよ!すごいだろー」咲良は自慢げに胸を反らした。
「電気クラゲオタクもそこまでいくと尊敬に値するよ」陸は呆れ顔だ。



先ほどまで、咲良と陸を包んでいた青い光も今は消えている。電磁波による急な気圧の変化も治まったのだろう。
「よし、行こう!」
「うん!」

陸が差し伸べた手を咲良がしっかりと掴んだ。

はじまりはいつも君と「プロローグ」

2199年、地球は未曽有の危機に陥ることになる。
しかし、それを知るのは、権力、そして財力をもつ一部の人間と科学者達だけだった。

科学者たちは、それぞれのデスクに散らばった資料や機器に目を通しながら、迫りくるその時を待っていた。
薄暗い地下の核シェルターの中、非常灯が不気味に点滅していた。コンクリートの冷たい質感が不安をさらに煽る。
天井から垂れ下がる配線が時折揺れ、金属の摺れる音が静寂を切り裂くように響く。

「衝撃波到達まであと10秒!!」科学者の一人がそう叫んだ。
秒読みが開始された。
10・・・
9・・・・
8・・・・
7・・・・
6・・・・
5・・・・
4・・・・
3・・・・
2・・・・
1・・・・
今・・・
非常灯が消え、短い停電のように一瞬の闇が訪れた。

冬の空に輝くオリオン座、その中心の位置する1等星ベテルギウス超新星爆発を起こし、最後の瞬間を迎えた。
その巨大な星は地球の大きさの約3万倍にも及び、命が尽きるときの断末魔の叫びはすさまじいものだが、爆発によってバラバラに飛び散った星の残骸とガスが広がり色鮮やかな光を放つ星雲となった。
ベテルギウスは光の速さでも500年以上かかる場所にある。
つまり今観測されているベテルギウスの最後の瞬間は500年以上前に起こった出来事なのである。
科学者たちはとてつもない天体ショーに夢中になった。

絶望的な発見をする、その時までは・・・・・


「その発見はたしかな事なのかね?」
泉 真央は上司である教授に対して報告を行っていた。
「はい。間違いありません。超新星爆発による衝撃波が地球を襲います。」
彼女は宇宙物理学においてトップレベルの大学を卒業後、世界中の研究機関で経験を積み、30歳という若さで助教授まで上り詰めた天才だった。
「それはいつ地球に到達するのかな?」年齢は70歳になり、温厚そうな表情で、ほとんどの髪が白髪になった教授はメガネの位置を整えながら、訊いた。

ベテルギウス超新星爆発を起こし、その衝撃波は光の速度の約0.875倍の速度で地球に到達します。
計算上ではペテルギウスの爆発が地球で観測された日から遅れて868時間後、現在からですと2年と1か月後となります。

「ふむ、それで地球に与える影響は?」

「まずは重力干渉が地球を襲います。地球の重力場に影響を与え、気候変動が起こり、未曽有の天災が襲うことが予想されます。また大気圧の変動から酸素濃度が低下します。そして強力な電磁波の影響で、地球のあらゆる機器が機能を止めることになります」

「それは今世紀最大の地球の危機と言ったところですね・・・」白髪の教授は、窓から空を見上げて呟いた。

しかしその情報は箝口令が敷かれ、地球上に住むすべての生命の為には使われなかった。
それを知るのは権力、そして財力をもった一部の人間と科学者だけだった。


未知なる衝撃波が地球を襲った。
夜空が不自然な輝きを放つ。大気中の酸素濃度が急激に低下し、人々は呼吸困難に陥る。物体が浮遊し始め、重力の変動が街を混乱に陥れた。さらに気候が荒れ狂い嵐と洪水が発生した。